シェイクスピアの喜劇『十二夜』を読む(最終回)テラさん教授の読書の楽しみ(お話:寺島悦恩)

喜劇『十二夜』を読む楽しさの続きです。できれば、『十二夜』のややこしい双子の間違いの喜劇を経てジーンとくるとてもいいシーンまで行ってみようと思いますが。

その前に、前回も言いました、マルヴォーリオの自己愛の問題、自己愛と絡みあい、階級を乗り越え、伯爵になりたいというマルヴォーリオの逆玉願望を面白おかしく、作者シェイクスピアは、まるで即興の劇中劇のように観客に見せてくれています。

マルヴォーリオ自身がこう言っている。前例はあるのだと。ストレイチー伯爵の令嬢は衣装係の召使と結婚したと。2幕5場、オリヴィア姫の庭園です。

伯爵を演じたいという夢の稽古。お辞儀の仕方の稽古。これをなんと30分もマルヴォーリオは何度も何度も繰り返しているというのです。この夢の稽古を、つげの垣根に隠れ、マライアは笑う。こういうところは、入れ子細工になっているのです。

つまり、マルヴォーリオの一人芝居を見ているマライアたち、その全体をわたしたち観客が見ているという。

あの人、あっちのひなたで、さっきから30分間も自分の影法師に向かってお辞儀の稽古をしているわ。つげの垣根に隠れたフェイビアンが言う。ほら、どんどんハマってますよ。もう妄想でパンパン、破裂しそうだと。妄想でできたマルヴォーリオの即興一人芝居はこう。

結婚して三か月、伯爵の椅子に坐り……家来どもをはべらせ、草花模様を刺繍したビロードのガウンを羽織り、わしはちょうど昼寝から起きたところだ。寝椅子ではオリヴィアがまだ眠っている……。

そこで、殿様気分をじっくり味わう。重々しく一同をねめまわし、こう言ってやる。わしはおのれの分をわきまえておる。おまえたちもそうあってほしい。

ところで、わが身内のトービーをこれへ……お付きの者七人が奴を探しにハハっと飛び出して行く。その間、わしは眉をひそめ、たぶん時計でも巻くか、いじっているだろう、何か豪華な宝石でも。 そうら、アホウドリが仕掛けられた罠に近づいていくとフェイビアンが言う。

この即興一人芝居のすぐ後、庭園の小道にオリビア姫からの偽ラブレターが落ちているのをマルヴォーリオは見つけてしまう.....(ラジオ川越十二月12日放送分)